なぜこの治療は保険が効かないの?|審美歯科と保険診療の本当の関係
- 三木雄斗

- 4 時間前
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歯科医院で「この治療は保険が効きません」と言われて、驚いたり困惑したりした経験はありませんか?特に「歯を白くしたい」「変色した詰め物を新しくしたい」といった見た目に関する要望に対して、保険適用外と説明されることがよくあります。今回は、なぜ審美目的の歯科治療に保険が使えないのか、その理由を分かりやすく解説します。
保険診療の基本ルール:「病気やケガの治療」が大前提

日本の公的医療保険制度は、病気やケガを治療するための社会保障制度です。虫歯や歯周病といった病気、事故で歯を損傷した場合の修復など、健康上の問題を解決する医療行為が保険の対象となります。
一方で、健康に問題がない状態での美容整形や健康診断などは、病気の治療ではないため保険の対象外です。歯科治療も同じで、見た目を良くするだけの処置は「病気の治療」とは見なされず、健康保険が適用されません。
保険制度は、みんなから集めた保険料や税金を財源とした「助け合いの仕組み」です。そのため、本当に必要な医療行為に適正に配分される必要があり、個人の嗜好による美容目的には使えないよう厳格なルールが定められています。
保険診療と自費診療の違い
保険診療は、治療費の一部(通常3割)を患者さんが負担し、残りを保険者が負担する仕組みです。使える材料や治療方法は国が定めた範囲内に限られます。
自費診療(自由診療)は、保険が適用されない診療で、費用は全額患者さんの自己負担となります。審美目的の治療はこの自費診療の代表例です。
重要なポイントは、保険診療には必ず「診断名(病名)」が必要だということです。検査や所見で裏付けられた病気がなければ、保険を使うことはできません。つまり「健康な人(病気のない人)には保険は効かない」仕組みになっているのです。
もし病気でもないのに保険を使おうとすれば不正請求とみなされ、医療機関には厳しいペナルティが科されます。
具体例:なぜ変色した詰め物は保険で交換できないの?
「時間が経って変色してしまった白い詰め物を、保険でやり直したい」というご要望をよくいただきます。しかし、詰め物自体に虫歯や機能的な問題がない限り、保険では交換できません。
なぜなら、変色は見た目の問題に過ぎず、それ自体は病気ではないからです。
もし診査の結果、詰め物に隙間ができて虫歯のリスクがある、詰め物が欠けて機能が低下しているといった医学的な再治療の必要性が確認できれば、その治療は保険適用となります。しかし機能的に問題なく、患者さんの審美的な不満だけの場合、それを理由に保険で治療すると規則違反になってしまうのです。
ホワイトニングが保険適用外の理由
ホワイトニングは、歯を白くすることを主目的とした美容目的の医療行為です。
過酸化水素などを用いた歯の漂白は歯科医師(または指示を受けた歯科衛生士)が行う医療行為ですが、虫歯や歯周病の治療ではないため、公的医療保険の適用は一切ありません。
保険で認められているのは、歯石除去や着色汚れのクリーニング程度です。それも歯周病や虫歯予防という治療目的があって初めて保険算定できるのであって、単に見た目を綺麗にするだけでは保険の対象外なのです。
ちなみに、余談ですが一般にサロンなどで行われる「セルフホワイトニング」は、歯科医院で行うホワイトニングのように過酸化水素などで歯そのものを漂白するものではなく、歯の表面の着色汚れを落として本来の歯の色に近づけるタイプが中心です。
歯の黄ばみが気になる場合でも、まずは歯科医院でむし歯・歯周病や着色の原因を確認し、必要に応じてクリーニングを受けると同じ効果がさらに安価に行え・・・またレントゲンなどの撮影により隠れたむし歯などの問題も見つかりますので、個人的にはセルフホワイトニングよりも歯科医院への定期検診をお勧めいたします。
※「見た目をきれいにすることだけ」を目的とした着色除去は、保険の対象外となる場合があります。
保険が効く「見た目の治療」も存在します
すべての審美治療が保険で認められないわけではありません。
機能回復と一体となって見た目も改善できる治療については、保険診療で認められているケースがあります。
例えば、前歯の差し歯では「硬質レジン前装冠」(金属の土台に白いプラスチックを焼き付けた冠)や「CAD/CAM冠」(レジンとセラミックのハイブリッド素材)などの白い歯が、条件付きで保険適用となります。
ただし適用できる部位や条件が細かく定められています。
また、交通事故で前歯を失った場合や、先天的な疾患による顎変形症の矯正治療など、見た目の改善が心身の障害の除去とみなされる特別なケースでは保険適用となることがあります。
不正請求のリスク:なぜ歯科医師は断らざるを得ないのか

「なんとか保険でやってほしい」と頼まれても、歯科医師は安易に応じることができません。審美目的の処置を保険診療として請求することは不正請求にあたり、発覚すれば厳しい処分を受けるからです。
実際、令和5年度には全国で21件の医療機関が保険医療機関の指定取り消し等の処分を受け、指導・監査等の結果として約46億円の診療報酬が返還されています。保険医療機関の指定取消は、経営的にも社会的にも致命的であり、場合によっては刑事罰に問われる可能性もあります。
「先生が保険でやりたくないだけでは?」と思われるかもしれませんが、実際にはルールに反すると医院が大きなリスクを負うため、断らざるを得ないのです。
よくある質問
Q. 他の医院に行けば保険でやってくれるのでは?
A. 正規の保険医療機関であればルールは全国共通なので、本来どこでもできません。もし「保険でホワイトニングできる」といった宣伝をしている所があれば要注意です。制度上あり得ず、何らかの不正な対応をしている可能性があります。
Q. 保険が効かないということは、やる必要のない治療ということ?
A. 必ずしもそうではありません。保険適用の有無は医学的な必要性の線引きであって、その人にとって無意味という意味ではありません。見た目が良くなることで生活の質(QOL)が向上するなら、自費でも検討する価値はあります。
Q. 保険診療だと見た目は二の次なの?
A. 保険診療でもできる範囲で審美性に配慮した治療は行われています。ただし、使える素材や方法に制限があり、「最低限の機能回復」がゴールである点はご理解ください。より高い審美性を求める場合は自費診療となります。
当院のスタンス:審美目的の治療について
当院では、審美目的の治療に保険を使用することはできません。これは当院の判断ではなく、国の制度で定められたルールです。
変色した詰め物の交換、歯を白くしたい、歯の形や色を改善したいといった見た目を重視される場合は、自費のダイレクトボンディングをご選択ください。ダイレクトボンディングは、審美性に優れた治療法で、患者さんのご要望に沿った美しい仕上がりを実現できます。
もちろん、虫歯や詰め物の破損など、医学的な問題が確認された場合は保険診療での治療が可能です。まずは診査を受けていただき、現在の状態を正確に把握した上で、最適な治療方法をご提案させていただきます。
まとめ
公的医療保険は「みんなの助け合い」で成り立つ制度であり、対象はあくまで病気やケガの治療です。見た目の美しさの追求は原則として自費診療となりますが、これは患者さんの審美的な悩みを軽視するものではなく、公的保障の範囲と私的ニーズを分ける社会的なルールです。
大切なのは、制度を正しく理解し、ご自身にとって何が優先事項かを歯科医師と相談することです。保険診療で十分と感じるならそれで良いですし、見た目を重視したければ自費治療のメリット・デメリットを踏まえて検討していただければと思います。
ご不明な点やご相談がございましたら、いつでもお気軽にスタッフにお声がけください。患者さん一人ひとりのご希望に沿った治療計画を、ルールの範囲内でしっかりとご提案させていただきます。


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