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「保険」と「自費」の違い

後悔しないための歯の治療の選び方

「医科では当たり前に最善の治療が保険で受けられるのに、どうして歯科では良い治療を受けようとすると自費になるの?」

このような疑問を持たれたことはないでしょうか。

 

その背景には、日本の医療保険制度が始まった半世紀以上前の歴史が深く関わっています。ご自身の歯を生涯にわたって守るため、そして将来後悔しない選択をするために、まずはその理由からご説明します。

歯科保険制度の成り立ち
「最低限の機能回復」が目的だった時代

今から60年以上前の1961年、日本に国民皆保険制度が誕生しました。

誰もが安心して医療を受けられる素晴らしい制度ですが、当時の歯科医療が直面していたのは「むし歯の洪水」とまで言われた、爆発的なむし歯の蔓延でした。

多くの国民がむし歯に苦しむ一方で、歯科医師の数は圧倒的に不足していました。

 

この状況で、新設された歯科保険制度が最優先すべき課題は、

「膨大な数のむし歯をいかに効率よく、そして誰もが受けられる費用で治療するか」

という一点に尽きました。

その結果、当時の歯科保険は

「悪くなった歯を削り、詰め、抜いて、入れ歯を作る」

という、いわば「緊急事態に対応するための対症療法」を前提とした仕組みとして設計されました。

 

一人ひとりの患者さんに十分な時間をかけて根本原因を探ったり、そもそもむし歯にならないための「予防」に重点を置いたりする余裕はなく、まずは「痛みなく噛める」という最低限の機能を回復させることが最重要視されたのです。

この「緊急事態対応型」ともいえる設計思想が、部分的な改定はありながらも、現代に至るまで歯科保険制度の根幹として受け継がれています。

医科と歯科の
保険制度の違い

一方で、がんや心臓病といった医科が扱う疾患の多くは、直接生命を脅かすものとして社会的に認識されています。

 

そのため、保険診療においても、その時点で最善とされる標準治療が適用されるのが一般的です。

しかし、むし歯や歯周病は、重篤化すれば全身の健康に悪影響を及ぼすものの、多くの場合、直接生命に関わる病気とは認識されにくいのが実情です。

こうした背景から、歯科の保険診療は「痛みなく噛める」という機能回復をゴールとし、それ以上の審美性(見た目の美しさ)や快適性、長期予後、予防といった「QOL(生活の質)」に関わる部分は、保険でカバーすべき優先事項から外されてしまったのです。

では治療の質はなぜ変わるのか?

では、同じ歯科医師が治療するのに、なぜ保険診療と自費診療で違いが生まれるのでしょうか。

それは、保険診療に定められた「ルール」に理由があります。

保険診療は、治療内容ごとに国が定めた報酬(価格)が決まっています。

そのため、医院経営を維持しながら質の高い医療を提供するには、厳しい制約の中でやりくりをする必要があります。

・時間の制約: 決められた時間内で治療を終える必要があるため、一人の患者さんにかけられる時間は限られます。

・工程の制約: 認められた必要最小限の工程で治療を進める必要があります。

・材料の制約: 使用できる材料は国が認めたものに限られ、より精密で耐久性の高い最新の材料は使えない場合があります。

もちろん、日本の歯科医師は非常に真面目で、多くがこの厳しい制約の中でも、自身の知識と技術を最大限に活かし、最善を尽くそうと日々努力しています。

一方で、自費診療には、こうした時間、工程、材料の制約が一切ありません。

・十分な時間: 一人の患者さんのためだけに十分な時間を確保し、丁寧で精密な治療を行うことができます。

・妥協のない工程: 治療の精度を高めるために必要なあらゆる工程を、一切省略することなく行えます。

・最良の材料: 現在利用できる材料の中から、審美性、耐久性、身体への優しさなどを考慮し、その患者さんにとって最も適した材料を選択できます。

・信頼できる歯科技工士との連携: 被せ物や詰め物を作る歯科技工士も、技術力の高い信頼できるパートナーに依頼することができます。

材料の違いももちろんありますが、それ以上に「一人の患者さんに対し、どれだけ丁寧に時間をかけ、一切の妥協なく処置を行えるか」という点が、保険診療と自費診療の最も大きな違いであり、治療の精度や予後(治療後の経過)を大きく左右するのです。

将来の自分への最高の投資

若い頃は、健康よりも優先したいことがたくさんあるかもしれません。

 

しかし、ご高齢の方の診療をしていると、私たちは

「若いうちに、もっと歯にお金と時間をかけておけばよかった」

と後悔される多くの方に出会います。

​ある調査では人生で最も後悔していることの1位が貯金をしておくこと、2位が歯に時間とお金をかけておくことだったそうです。

歯は一度失うと二度と元には戻りません。

 

そして、一つの歯のトラブルが、ドミノ倒しのように口全体の健康、さらには全身の健康を損なうきっかけになることも少なくありません。

保険診療が「最低限の機能を取り戻す治療」であるのに対し、

自費診療は「現在の最善を尽くし、口腔内の健康を長期的に守り、QOLを高めるための未来への投資」と言えるでしょう。

どちらの治療法を選ぶかは、ご自身の価値観やライフプランに基づいて決めるべきです。

 

この記事が、あなたがご自身の健康について深く考え、将来後悔のない選択をするための一助となれば幸いです。

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