お口の衰えは万病の始まり?「オーラルフレイル」入門とセルフケア
- 三木雄斗
- 15 分前
- 読了時間: 9分
こんにちは。まだまだ残暑も厳しいですから水分補給はしっかりとしていきましょう。
さて、9月と言えば、敬老の日。
大切なお年寄りを想う日ですね。
ぜひこの機会に「お口のフレイル」について考えてみましょう。
フレイルとは加齢による心身の虚弱状態を指しますが、実はお口の機能も衰えてくる
ことをご存知でしょうか。
例えば
「最近固いせんべいが噛みにくくなった」
「お茶を飲むとむせやすくなった」
などは、お口のフレイルのサインかもしれません。
取手市にお住まいの方々の中にも、「歳だから仕方ない」と見過ごしている方がいるかもしれませんが、早めに気づいて対策することが健康長寿の秘訣です。
本記事では、オーラルフレイル(口腔機能の虚弱状態)とは何か、なぜ早期発見が大切か、自宅でできる簡単チェック方法をわかりやすく解説します。ご家族と一緒にチェックしてみましょう。
オーラルフレイルとは?お口の衰えに気づこう
オーラルフレイルとは、簡単に言うとお口の機能のちょっとした衰えのことです。
健康な口と、食べ物がうまく噛めない・飲み込めないといった重度の口腔機能低下との中間に位置する状態です。具体的には、次のような症状が現れます。
滑舌低下: 発音が不明瞭になり、「パ行やタ行が言いにくい」など舌や唇の動きが悪くなる。
食べこぼし: 食事中によく食べ物をこぼすようになる。
むせ: お茶や汁物で誤嚥しかけて「ケホッ」とむせることが増える。
噛めない食品の増加: 「硬いお肉やせんべいが噛み切れない」と感じることが増える。
口の乾燥: 唾液が減りドライマウス(口腔乾燥症)気味で、舌や口内がネバネバする。
こうした症状は一見「歳のせいかな」と思いがちですが、放置するとさらなる口の機能低下に繋がる可能性があります。
実はお口のフレイルは全身のフレイル(虚弱)とも深く関わっていることがわかっています。
お口は食べる・話すといった生活の基本を支える器官です。そのため、噛めない・飲み込めない状態が続くと栄養不足になり、筋力低下や要介護リスクが高まる「負の連鎖」が起こりえます。
つまり、お口の衰えは全身の衰えの一部なのです。

なぜ早期発見が大切?放置するとどうなるの?
オーラルフレイルをそのままにしてはいけない最大の理由は、将来の健康リスクが高まることです。
研究によれば、お口の機能低下がある高齢者は、数年以内に要介護状態に陥ったり、亡くなったりする危険性が2倍以上になると報告されています。
実際、日本のある大規模調査では、
オーラルフレイル該当者は非該当者に比べ:
身体的フレイル発症リスク: 約2.4倍上昇
要介護認定リスク: 約2.3倍上昇
死亡リスク: 約2.2倍上昇
といった具合に、有意な差が確認されました。
これは、お口の状態が悪いと十分に栄養を摂れず筋肉量が落ちたり、誤嚥性肺炎を起こしやすくなるためです。
特に歯が20本未満になると食べられる物が限られ、栄養バランスの偏りから全身状態が悪化しやすいことが分かっています。
またむせが多い人は肺炎のリスクが上がり、噛む力が弱い人は筋力低下(サルコペニア)に繋がりやすいことも指摘されています。
取手市藤代エリアでも高齢化が進み、在宅で暮らすお年寄りの数が増えています。
それに伴い、地域包括支援センター等から「最近噛めなくて軟らかい物ばかり食べているお年寄りがいる」といった声も聞かれます。
身近な家族の中に
「あまり噛まずに飲み込んでいる」
「会話が聞き取りにくくなった」
と感じる方がいたら、早めに気づいて声をかけてあげることが大切です。
お口のフレイルは早期であれば対策次第で改善可能だからです。
逆に進行してしまうと、治療やリハビリに長い時間がかかる場合もあります。
敬老の日のこの機会に、ぜひお口の健康状態をチェックしてみましょう。

お口のフレイルをセルフチェック!
~5つの簡単質問~
専門的な検査機器がなくても、以下の5つの質問でお口のフレイルを簡単にチェックできます。
各質問について「はい」または「いいえ」で答えてみましょう(ご自身の場合は自己チェック、ご家族の場合は一緒に確認してあげてください)。
【オーラルフレイル5項目チェックリスト(OF-5)】
現在、自分の歯は何本ありますか?
0~19本(20本未満) … 該当(リスクあり)
20本以上 … 非該当(リスク低い)※さし歯や被せ物は自分の歯と数えますが、入れ歯やインプラントは含みません。
6か月前と比べて、硬いものが食べにくくなりましたか?
はい … 該当(噛む力低下のおそれ)
いいえ … 非該当
お茶や汁物でむせることがありますか?
はい … 該当(飲み込み機能低下のおそれ)
いいえ … 非該当
口の渇きが気になりますか?(口が乾いてパサパサする)
はい … 該当(唾液分泌低下のおそれ)
いいえ … 非該当
普段の会話で、言葉をはっきり発音できないことがありますか?
はい … 該当(発声・滑舌機能低下のおそれ)
いいえ … 非該当
結果の見方: 以上5項目中2つ以上で「該当=はい」があった場合、あなたはオーラルフレイルの疑いありと判定されます。

例えば「自分の歯が15本しかない」かつ「最近むせやすい」のように2項目当てはまる方は注意が必要です。
逆に1項目以下であれば、現時点では大きな問題はない可能性が高いですが、それでもゼロ項目が理想ですので、該当項目があれば生活習慣を見直したり歯科で相談したりすると安心です。
このチェックリストは日本老年歯科医学会などが発表した信頼性の高いものです。
簡単な質問ですが、高齢者の実態調査から導かれた重要ポイントが網羅されています。
例えば「歯が20本未満」は噛む力や栄養状態に影響し、「むせる」は嚥下機能や肺炎リスクに直結します。
「硬い物が食べにくい」や「滑舌が悪い」も筋力低下のサインの一つです。
「口の乾燥」は唾液の抗菌作用低下による虫歯・感染リスクを意味しますので、それぞれが放っておけないサインなのです。
セルフチェックで該当が2つ以上あった方は、早めに専門家に相談しましょう。
専門医一覧はこちら。
フレイルの兆候があったら…今日から始める対策
チェックの結果、「ちょっと心配だな…」と思ったら、今日からできる予防策に取り組んでみましょう。オーラルフレイルは適切な対処で進行を遅らせたり改善したりできる可能性があります。以下に日常で簡単にできる対策を紹介します。
お口の体操: テレビでも紹介されるパタカラ体操が有名です。「パ・タ・カ・ラ」をそれぞれはっきり10回ずつ発音します。唇と舌をしっかり動かすことで滑舌改善と誤嚥予防に役立ちます。実際、舌の筋力トレーニングで舌圧アップと発音改善に効果があったとの研究報告もあります。歌を歌ったり、早口言葉に挑戦したりするのも良い刺激になります。
しっかり噛んで食べる: 柔らかい物ばかりでなく、適度に噛みごたえのある食品(例えば茹で野菜より生野菜、白米より雑穀米など)も取り入れましょう。ただし無理は禁物なので、ご自身の歯や入れ歯の状態に合わせて工夫します。よく噛むことで唾液が出て口腔乾燥を防ぎ、顎の筋肉も鍛えられます。嚥下力も向上し、「むせ」の予防につながります。
お口周りの筋トレ: 頬の内側から風船を膨らませるように**「ぷー」と膨らます運動、逆にすぼめてすっぱい表情で「うー」とすぼめる運動を繰り返します。これは口輪筋のエクササイズになり、食べこぼし防止に効果的です。舌については、口を開けて舌を出し入れ**したり、上下左右に思い切り伸ばしたりする運動がおすすめです。これらは道具不要で今日から始められます。
唾液腺マッサージ: 耳下腺や顎下腺など唾液腺を刺激するマッサージも効果的です。耳たぶの下あたり(耳下腺)を指でくるくると優しくマッサージしたり、下あごの内側のやわらかい部分(顎下腺)を押したりします。唾液の分泌が促され、口の乾燥が和らぎます。
以上のようなセルフケアを継続しても、「やっぱり噛めないものが多い」「むせが改善しない」と感じる場合は、早めに歯科医院を受診しましょう。
当院で行えること: 虫歯や歯周病の治療、合わない入れ歯の調整・作製、嚥下障害が疑われる場合は指導を行っておりますが、難易度の高いケースにおいてはJAとりで総合医療センターの高齢者(嚥下)歯科への紹介を行っております。

リスク・限界と費用についても知っておこう
オーラルフレイルへの対応策を取る上で、知っておいていただきたいポイントがあります。
まず、セルフチェックやセルフケアには限界があることです。
チェックリストはあくまで簡易判定ですので、「大丈夫」と思っても実際には問題が潜んでいるケースや、逆に「心配」と感じても大事に至らないケースもあります。
自己判断だけで安心せず、気になる症状があれば専門機関で評価してもらうことをお勧めします。
特に嚥下障害(むせが頻繁に起こる)場合、誤嚥性肺炎のリスクがあるため放置は危険です。
次に、リスクと副作用について。
お口のトレーニング自体は基本的に安全ですが、無理な力を加えると顎関節を痛めたり、誤った嚥下体操でかえってむせることもありえます。
自己流で不安な場合は、歯科医師・歯科衛生士に正しい方法を教わりましょう。
入れ歯を使っている方は、合っていない入れ歯で硬い物を噛むと粘膜を傷つける恐れがありますので、必ず調整された入れ歯で行ってください。
費用面については、現在オーラルフレイルそのものの改善を目的とした特別な自費治療というものは一般的ではありません。
多くの場合、保険診療の範囲で対応できます。
例えば歯科での口腔機能検査や嚥下訓練は、要件を満たせば保険適用されます(ご高齢の方なら1割~3割負担)。
入れ歯作製も保険が利きます。
基本的に、お口の健康維持に過度な費用はかかりませんので、費用面の心配よりもまずは相談する行動を優先してください。
(※本記事は一般情報の提供を目的としており、医学的助言の代替にはなりません。不安な症状があれば専門の医療機関で相談しましょう。)
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