【歯科医師向け】Giomerの臨床エビデンスと実践的活用法|取手市の坂寄歯科医院が解説
- 三木雄斗

- 9月25日
- 読了時間: 9分
更新日:9月29日

S-PRGフィラー含有コンポジットレジン「Giomer」
の臨床的価値をエビデンスと実践から紐解く
著者:取手市藤代 坂寄歯科医院 院長 三木 雄斗
導入:Giomerとは何か?
近年、歯科修復材料には、失われた歯質を補うだけでなく、修復物周囲の口腔環境を積極的に改善する「生物活性(バイオアクティビティ)」が求められるようになっています。
当院でも、日々進化する歯科材料の情報を収集・吟味し、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供することを目指しています。
その注目材料の一つが、松風さんの開発したS-PRGフィラーを含有する「Giomer」です。
この材料は、フッ化物を含む6種類のイオンを放出し、歯質強化や抗菌作用をもたらすことが基礎研究で強力に示唆されています 。
しかし、in vitroでの輝かしいデータが臨床でどう反映されるかを冷静に評価することが、我々臨床家には不可欠です。
本稿では、質の高い臨床エビデンスに加え、当院での実践的な活用法を交えながら、Giomerの臨床的意義、最適な適応、そして限界について多角的に考察していきます。
私はコンポジットレジン修復やダイレクトボンディングのような直接修復をメインとしておりますので、今回もセメントではなくそちらをメインに纏めていきます。
参考論文は一番最後にまとめておきます。
臨床シナリオ:Giomerが輝く場面とは?
Giomerの適用を検討すべき臨床シナリオは、その「生物活性」と「審美性」のバランスから見えてきます。
エビデンスが示すように、う蝕リスクは高いものの、従来のグラスアイオノマーセメントでは審美的な要求を満たしきれない歯頸部病変は典型的な適応症です 。
特に根面う蝕は、イオン放出による保護効果が期待される領域と言えるでしょう 。
さらに、臨床実感として極めて有益なのが、その「抗プラーク性」を活かした戦略的な応用です。
例えば、修復物の辺縁、特に清掃が困難な隣接面や歯肉縁下マージンといったプラークが付着しやすい部位に選択的に使用することや、根管治療時に設置する隔壁、あるいはTecのマージン調整時など、細菌の侵入や付着を極力避けたい場面でGiomerはその真価を発揮します。
主要エビデンスの要点:論文から見るGiomerの実力
Giomerの臨床性能に関する高レベルエビデンスは、その多面的な特性を浮き彫りにします。
二次う蝕の予防効果は最も期待されるアウトカムですが、結論は一様ではありません。
2022年のシステマティックレビュー/メタ分析では、二次う蝕発生率に統計的有意差は認められませんでした。
一方で、2023年のネットワークメタ解析は、バイオアクティブ材料全体が二次う蝕リスクを低下させる傾向を示しており、イオン放出というメカニズムの臨床的有効性を支持しています 。
プラーク付着抑制効果については複数の臨床研究においてその有効性を支持されています。

修復物の物理的特性に目を向けると、辺縁封鎖性は標準的な材料と同等レベルを達成できることが示されています 。
審美性については、グラスアイオノマーセメントに対して表面性状で明確な優位性を示しますが、臨床的な実感としては、最新のナノフィラー系コンポジットレジンと比較した場合、研磨性や光沢の持続性において一歩譲る面があることは否めません。
窩洞別の臨床成績では、適応症例によって結果にばらつきが見られます。
臼歯部II級窩洞において13年という画期的な長期成功が報告される一方で 、別の研究では高い失敗率も報告されており、結果に一貫性がありません。
これに対し、歯頸部(V級)窩洞では、より安定した成績が示されており、標準的なナノコンポジットやマイクロフィルドCRと同等の優れた臨床結果が複数のRCTで確認されています。

適応と使い分け:当院での実践的指針
これらのエビデンスと臨床経験を統合すると、Giomerの最適な適応は、その特性を理解した上での「適材適所」の考え方に行き着きます。
う蝕リスクが高く、グラスアイオノマーセメントでは審美性が不十分な歯頸部病変が有力な適応であることはエビデンスからも支持されます。
それに加え、抗プラーク性を最大限に活かすため、あらゆる修復物の歯肉縁下マージンや隣接面コンタクト下部など、部位を限定した戦略的応用が極めて有効です。
一方で、最高の審美性が要求される前歯唇面の中央部などでは、研磨性に優れた他のナノフィラー系CRを選択するのが賢明な判断と言えるでしょう。
実装ポイント:Giomerの性能を引き出す接着・研磨・重合の注意点
Giomerのポテンシャルを最大限に引き出すためには、いくつかの臨床的なキーポイントが存在します。
まず大前提として、そのベースはコンポジットレジンであり、ラバーダム防湿やZooなどロールワッテのみを使用して行われる簡易防湿ではなく、湿度のコントロールをしっかりと行なった上で適切な接着プロトコルを遵守することが成功の絶対条件です。
その上で、コンポジットレジン(特にGiomerの抗プラーク性や長期的な表面性状)は、術者による丁寧かつ十分な研磨によって初めて発揮されることを強調しなければなりません。
研磨技術は、この材料を使いこなす上で必須のスキルと言えます。
さらに、コンポジットレジン特有の酸素による重合阻害への配慮も不可欠です。
特に隣接面のコンタクトエリアを賦形する際には、マトリックスを適切に用いるか、最終重合時に酸素遮断剤を塗布して未重合層の発生を抑制することが、修復物の強度や辺縁封鎖性、長期的な安定に繋がります。
臨床応用の一つの洗練された形として、審美性が求められる唇面には研磨性に優れたナノフィラーCRを、強度が求められる咬合面にはペーストCRなどを、プラークが付着しやすい歯肉縁部や隣接面にはGiomerを用いるといった、一窩洞内で材料を使い分けるハイブリッド・テクニックも有効な戦略です。
実際の症例写真


実際の症例では、写真のように歯肉縁下およそ2mmからマージンを立ち上げています。
術後2年の時点でも、歯肉の発赤や腫脹は認められず、CR部へのプラーク付着も確認されません。
一般にコンポジットレジンはプラークが付きやすいと言われますが、歯肉に接する領域にGiomerを選択的に用いることで、良好な経過を維持できるケースを多く経験しています。
限界と今後の展望
Giomerの臨床的価値は多くの研究で示されていますが、いくつかの限界と今後の課題も明確です。
第一に、in vitroで示された強力な抗う蝕効果が、臨床現場で二次う蝕の発生率を統計的に有意に減少させるという、質の高いエビデンスは現時点では不足しています。
第二に、高性能なナノコンポジットと比較した場合、長期的な表面安定性において劣る可能性があります。
そして、審美性が厳しく問われるIV級窩洞への適用を裏付けるエビデンスが欠如しています。
結語:Giomerを臨床で活かすために
松風Giomerは、S-PRGフィラーによる生物活性とコンポジットレジンとしての審美性を両立させたユニークな修復材料です。
しかし、それは全ての症例における万能材料ではありません。
その真価は、エビデンスに裏打ちされた適応症を見極めると同時に、抗プラーク性という強力な武器を、修復物のどの部位で活かすかという臨床家の戦略的思考によって最大限に引き出されます。
ここ取手市藤代の地で、坂寄歯科医院は、患者さんの長期的な口腔健康に貢献するため、このような材料特性の深い理解に基づいた治療を心がけております。
材料選択にお悩みの先生方や、ご自身の治療について詳しく知りたい患者さんは、ぜひ一度ご相談いただければ幸いです。
医院情報・ご予約はこちら
本記事でご紹介したようなエビデンスに基づいた歯科材料の選択や、精密なレジン充填治療にご興味のある方は、お気軽にご相談ください。
医院名: 坂寄歯科医院 (Sakayori Dental Clinic)
院長: 三木 雄斗 (みき ゆうと)
住所: 〒300-1512 茨城県取手市藤代503
電話番号: 0297-82-4160
公式ウェブサイト: https://www.fujishiro-dental.com/
Web予約: Web予約はこちらから
参考文献
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付録:院内での標準化に向けたポイント
Giomerを院内での標準的な修復オプションとして導入するにあたり、まずはその材料特性、特にイオン放出という生物活性とコンポジットレジンとしての物理的特性のバランスについて、スタッフ全員で共通認識を持つことが重要です。
その上で、どのような患者さんプロファイルに最もメリットがあるかを明確にし、適応症例のガイドラインを設けることが推奨されます。
また、Giomerの性能は適切な接着操作に大きく依存するため、使用するボンディング材との組み合わせを含めた接着プロトコルを標準化し、術者による手技のばらつきを最小限に抑える必要があります。
特に長期成績に一貫性のない臼歯部II級窩洞へ適用する際は、咬合力や窩洞形態などを考慮した、より詳細な症例選択基準を院内で協議しておくことが、安定した臨床結果に繋がります。



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