この記事の要点(直接回答)
- 歯と歯が接している面や詰め物の下は、目で見ることも器具で触れることもできません。痛みの有無だけでは判断できない部分が残ります。
- 当院では、基本的に15ヶ月以内を目安に、むし歯のリスクが高い方では12ヶ月ごとを目安にレントゲンを撮影しています。
- パノラマとバイトウイングは見ている対象が違うため、当院では役割を分けて使っています。
- ただしレントゲンにも限界があります。初期のむし歯は写らないことがあり、黒く見えてもむし歯ではないこともあります。
- 被ばく量は、代表的な測定値でバイトウイング4枚が5.0マイクロシーベルト。日本で自然に受けている放射線が年間およそ2,100マイクロシーベルトです。
- 早く見つける目的は「早く削る」ことではなく、削らずに管理できる段階を見極めることです。
こんにちは。坂寄歯科医院 院長の三木です。
「痛くもないのに、どうしてレントゲンを撮るんですか?」——定期検診でよくいただく質問です。もっともな疑問だと思います。
先にお答えすると、症状があるかどうかと、画像で確認する必要があるかどうかは、別の話だからです。そして同時に、レントゲンを撮れば何でも分かるわけでもありません。この記事では、当院がどういう考えで撮影しているのかを、分かっていないことも含めて整理します。
痛みがなくても、目で見て分からない場所があります
お口の中を診るとき、歯科医師が直接確認できるのは、基本的に「見える面」と「器具の先が届く面」です。ところが歯は隣の歯と接しています。この接している面——隣接面と呼びます——は、健全な接触があるかぎり、そこを直接のぞき込むことができません。詰め物の下も同じです。
この部分について、レントゲンを加えるとどれくらい変わるのかを調べた研究があります。年齢群ごとに、口の中の診査だけの場合と、そこにバイトウイングを加えた場合を比べたところ、まだ治療されていない隣接面の象牙質まで進んだむし歯について、追加で診断された量が、口の中の診査だけで数えた場合の163〜700%にあたったと報告されています。
この数字は少し誤解を招きやすいので補足します。これは「患者さんの163〜700%にむし歯があった」という意味ではありません。口の中の診査で数えられた病変の数を基準にして、そこにどれだけ上乗せされたかという相対的な量です。また、これは一般的な研究のデータであり、当院の診療成績を示すものでもありません。
若い年齢層を対象にした7つの研究をまとめた系統的レビューでも、隣接面については、レントゲンを含めて調べたときのむし歯の割合が、口の中の診査だけの場合より一貫して高いという結果でした。ただし研究間のばらつきが大きく、「口の中の診査の数字を何倍すればレントゲン併用の値になる」という共通の換算式は示せなかったとされています。
つまり、どれくらい上乗せされるかは条件によって変わるが、上乗せがあること自体は一貫している、というのが現在分かっていることです。
パノラマとバイトウイング、何が違うのですか?
当院で撮影しているのは、主に次の2種類です。
- バイトウイング:フィルムやセンサーを噛んでいただき、上下の奥歯の頭の部分をまとめて写します。歯と歯の間、そして歯を支えている骨の高さを、細かく見るのに適しています。
- パノラマ:頭の周りを装置が回って、上下の顎全体を1枚に写します。埋まったままの親知らず、顎の骨の中の変化、上顎洞のあたり、顎の関節付近まで、広い範囲を把握できます。
この2つは、精度が高い・低いという関係ではなく、見ている対象が違います。
抜いた歯を実際に薄切りにして顕微鏡で確かめた結果を正解として、口の中に入れるバイトウイング・口の外から撮るバイトウイング・パノラマの3つを比べた研究があります。歯と歯の間のむし歯の診断では、口の中に入れるバイトウイングがもっとも優れていたという結果でした。パノラマは歯列全体を一度に投影する都合上、接触部の重なりや像のゆがみ、拡大の影響を受けるためです。
ですので「パノラマを撮ったから歯と歯の間も分かる」とは言えませんし、逆にバイトウイングだけでは顎の骨全体や親知らずの状態は把握できません。当院が両方を使っているのは、どちらかが優れているからではなく、片方だけでは見えない範囲が残るからです。
当院が15ヶ月以内を目安にしている理由
ここからは、一般的な話ではなく、私自身の考えです。
当院では、基本的に15ヶ月以内を目安にレントゲンを撮影しています。むし歯のリスクが高いと判断した方については、12ヶ月ごとを目安にしています。
この間隔にしているのには、勤務医時代の経験が関係しています。
以前勤めていた医院では、院内の決まりでレントゲンの撮影間隔が2年に一度と定められていました。私はその運用のなかで、もう少し早く画像で確認できていれば、選べる手立てがもっと残っていたのではないかと感じたケースや、顎の骨の中にできた腫瘍が、見つかった時点でかなり大きくなっていたケースに遭遇しました。
誤解のないように書いておきますが、これは以前の勤務先を批判するものではありません。撮影間隔をどう決めるかは医院ごとの判断ですし、2年という間隔が一律に誤りだという意味でもありません。ただ私自身は、その経験から「自分で決められる立場になったら、もう少し短い間隔で確認できるようにしよう」と考えるようになりました。それが今の15ヶ月以内という目安の理由です。
撮影間隔を延ばして困るのは、たいてい「間隔を延ばした本人」ではなく、その間に静かに進んでいたものを後から引き受ける側です。私は勤務医のころに、それを何度か見ました。もちろん、撮る回数を増やせば増やすほど良いという話ではありません。ただ、自分の医院では「もう少し早く見ておけばよかった」と思う側に倒さないでおこう、と決めています。
なお、これはあくまで当院の方針であって、すべての歯科医院がこの間隔にすべきだという意味ではありません。撮影の必要性は、これまでのむし歯の発生状況、歯と歯の間を直接確認できるか、前回の画像からの変化などをふまえて、その都度判断しています。むし歯リスクの評価についても、あわせてご覧ください。
レントゲンで分かること、分からないこと
ここは、当院が撮影を勧める立場だからこそ、正直に書いておきたい部分です。
レントゲンは、初期のむし歯を見つけることが得意ではありません。
初期のむし歯の診断について、各種のX線画像診断をまとめた2021年の系統的レビューでは、感度が0.47、特異度が0.88と報告されています。感度は「実際に病変がある人を、どれくらい拾えるか」の指標ですので、0.47という値は、初期の段階では写らないものが相当あることを意味します。
とくに噛む面(咬合面)の初期のむし歯には弱いことが知られています。11〜13歳の児童1,172人を対象にした研究では、実際に存在していた咬合面のむし歯のうち、レントゲンで検出できたのは33.2%でした。
逆の方向の限界もあります。特異度0.88という値は、画像で「あやしい」と見えたものの中に、実際にはむし歯ではないものが含まれ得るということです。歯と歯の間には正常な形のせいで暗く写る部分がありますし、撮影角度や重なり、詰め物の周囲の像も判断に影響します。黒く見える=むし歯、ではありません。
さらに、レントゲンの読み取りには人の判断が入ります。同じ画像でも、読む人によって判定が変わりうる検査だということも、あわせて知っておいていただければと思います。
ですので当院では、レントゲンだけで治療方針を決めることはしていません。画像・お口の中の診査・これまでの経過、この3つを合わせて判断しています。どの段階で削るかという線引きについては、むし歯をどの段階で治療するかの判断基準にまとめています。
被ばくはどのくらいですか?
「安全です」とだけお答えするのは誠実ではないと思いますので、数字でお示しします。
まず前提として、実効線量は装置・撮影条件・センサーの種類・体格などで変わりますので、「この撮影は必ず何マイクロシーベルト」という固定値はありません。以下は代表的な測定値として報告されているものです。
| 撮影方法 | 実効線量の報告値 | 日本の自然放射線との比較(目安) |
|---|---|---|
| バイトウイング4枚(矩形絞り併用) | 5.0 マイクロシーベルト | およそ1日分 |
| デジタルのパノラマ 1回 | 14.2〜24.3 マイクロシーベルト | およそ2.5〜4日分 |
| お口全体を18枚で撮影(矩形絞り併用) | 34.9 マイクロシーベルト | およそ6日分 |
日本で自然に受けている放射線は、厚生労働省の資料で年間およそ2.1ミリシーベルト(=2,100マイクロシーベルト)とされています。上の「日数」は、これを単純に365日で割って比較した算術上の目安であり、自然放射線と医療被ばくの条件が同じという意味ではありません。
照射する範囲を受像器の大きさに合わせて絞り込む矩形絞りという方法では、患者さんの線量をおよそ60%減らせるとされています。当院でも、必要な範囲だけを撮影することを基本にしています。
線量は小さいものの、ゼロではありません。だからこそ「念のため」ではなく、撮ることで診断や方針が変わると判断したときに撮る、という考え方をとっています。妊娠中の方の撮影については妊娠中の歯科治療の記事で別途整理しています。
早く見つける目的は、早く削ることではありません
ここを誤解されると、レントゲンが「削る口実を探す道具」になってしまうので、はっきり書いておきます。
まだ穴があいていない段階のむし歯については、削らずに管理するという選択肢があります。米国歯科医師会が2018年にまとめた非修復的治療のガイドラインでは、穴があいていない隣接面のむし歯に対して、高濃度のフッ化物を塗る方法などが選択肢として挙げられています。
つまり、早い段階で把握できることの意味は「早く削れる」ことではなく、削らずに様子を見られる段階なのかどうかを判断でき、その後の変化を追えることにあります。
逆に、一度削って詰めた歯には、やり直しの時期が来ます。一般歯科診療のデータでは、新しく行われた修復処置のうち47.2%が、すでに入っていた詰め物の交換でした。そして、交換前後の詰め物の大きさを実際に測った研究では、詰め物の縁が合っていなかった場合や、その下でむし歯が再発していた場合には、交換後の詰め物が元より有意に大きくなっていたと報告されています。一方、縁に問題がなく噛む面の部分を外すだけで済んだ場合には、有意な拡大は認められませんでした。
「詰め直すたびに必ず大きくなる」わけではない、けれども下でむし歯が進んでいた場合には大きくなりうる、というのが実測されている内容です。
当院で実際にあった例として、詰め物の下でむし歯が広がっていた左下6番の症例を公開しています。外から見えていた入り口は小さかったのですが、外してみると内部で広がっており、支えを失ったエナメル質を相応に取り除くことになりました。こういう状態は、外から見ているだけでは分かりません。
詰め物の下から再発するむし歯については二次う蝕のページで、定期検診の考え方については定期検診のページで、それぞれ詳しく整理しています。
よくある質問
痛くないのに、どうしてレントゲンを撮るのですか?
歯と歯が接している面や詰め物の下は、直接見ることも器具で触れることもできません。痛みが出ない時期が長いこともあるため、症状の有無だけでは判断できない部分が残ります。レントゲンは、その見えない部分を補うために使います。
パノラマとバイトウイングは、どちらか一方ではだめですか?
見ている対象が違うため、当院では役割を分けて使っています。バイトウイングは歯と歯の間や歯を支える骨の高さを細かく見るのに適し、パノラマは顎全体・埋伏歯・顎の骨の中の変化など広い範囲を把握するのに適しています。抜去歯を用いた比較研究では、歯と歯の間のむし歯の診断は口の中に入れるバイトウイングのほうが優れていたと報告されています。
レントゲンを撮れば、むし歯を全部見つけられますか?
そうとは言えません。初期のむし歯を対象にした系統的レビューでは、X線画像診断をまとめた感度は0.47と報告されています。とくに噛む面の初期のむし歯はレントゲンに写りにくく、児童を対象にした研究では検出できたのは33.2%でした。逆に、黒く見えてもむし歯ではないこともあります。そのため口の中の診査と組み合わせて判断します。
被ばくは大丈夫でしょうか?
代表的な測定値では、バイトウイング4枚で5.0マイクロシーベルト、デジタルのパノラマ1回で14.2〜24.3マイクロシーベルトと報告されています。日本で自然に受けている放射線が年間およそ2,100マイクロシーベルトですので、それと比べると小さい値です。ただしゼロではなく、装置や撮影条件でも変わりますので、必要性を判断したうえで撮影しています。
妊娠中でもレントゲンは撮れますか?
時期や目的によります。妊娠中の歯科治療とレントゲンについては別の記事で詳しく整理していますので、そちらをご覧ください。ご不安な点は撮影前にお伝えください。
前の歯科医院で撮った画像があるのですが、また撮り直しになりますか?
撮影時期と内容によります。過去の画像があれば、そこからの変化を見ることが診断の助けになりますので、お持ちいただけると参考になります。撮り直しが必要かどうかは、前回からの期間や目的をふまえて判断します。
本記事で紹介した数値は、いずれも公表されている研究・公的資料に基づく一般的なデータであり、当院の診療成績や個々の患者さんの経過を示すものではありません。撮影の必要性や間隔は、お口の状態によって一人ひとり異なります。診断・治療方針は診察のうえで決定しますので、気になる点は担当医にご相談ください。
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参考文献
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Kamburoğlu K, et al., Dentomaxillofacial Radiology, DOI:10.1259/dmfr/30526171(組織学的所見を参照基準として、口内法バイトウイング・口外法バイトウイング・パノラマの隣接面う蝕診断精度を比較した研究)
Macey R, et al., Cochrane Database of Systematic Reviews, 2021, DOI:10.1002/14651858.CD014545(早期う蝕の検出における各種画像診断法の統合感度0.47・特異度0.88を報告した診断精度レビュー)
King NM, Shaw L, Community Dentistry and Oral Epidemiology, 1979, DOI:10.1111/j.1600-0528.1979.tb01219.x(11〜13歳児1,172人を対象に、咬合面う蝕に対するバイトウイングの検出割合33.2%を報告した研究)
Ludlow JB, et al., The Journal of the American Dental Association, 2008(代表的な歯科X線撮影の実効線量測定。バイトウイング4枚5.0μSv、成人18枚法34.9μSv 等)
American Academy of Oral and Maxillofacial Radiology, JADA, 2023(歯科放射線撮影における患者防護に関する勧告。矩形絞りによる線量低減に言及)
American Dental Association, JADA, 2018(う蝕病変に対する非修復的治療のエビデンスに基づく診療ガイドライン)
Mjör IA, Shen C, Eliasson ST, Richter S, Operative Dentistry, 2002(一般歯科診療における修復処置の内訳。新規処置の47.2%が既存修復物の交換)
Mjör IA, Gordan VV, Operative Dentistry, 1998(交換前後のアマルガム修復物の大きさを実測した研究。辺縁不適合・再発う蝕を伴う場合に有意な拡大を報告)
厚生労働省(自然放射線による被ばく:世界平均2.4ミリシーベルト/年、日本平均約2.1ミリシーベルト/年)