治療前のクリーニングは"金儲け"?|口腔内環境を整える科学的根拠を歯科医師が解説

院長 三木雄斗
三木 雄斗(Yuto Miki, D.D.S.)
坂寄歯科医院 院長・歯科医師|ダイレクトボンディングをはじめとした保存科全般が得意な一般歯科医師
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この記事のまとめ:「治療前にクリーニングをするのは金儲け」――ネットでそんな意見を見たことがある方もいるかもしれません。結論から言うと、口腔内環境を整えてから治療に入ることには科学的な根拠があります。ただし全員に一律に必要なわけではなく、お口の状態に応じた判断が必要です。この記事では、なぜ治療前に環境を整えることが大切なのか、論文の知見をもとにお伝えします。

「先にクリーニングするのは金儲け」は本当か

むし歯が見つかったのに「まずはクリーニングから」と言われて、「早く治療してほしいのに、来院回数を増やして稼ごうとしているのでは?」と感じた経験はないでしょうか。

お気持ちはわかります。痛いところをすぐ治してほしい。それは当然の感情です。

ただ、これだけは知っておいてください。治療前に口腔内環境を整えることは、治療を"長持ちさせる"ために必要な工程です。手術前に手を洗わない外科医がいないように、汚れた口腔内でそのまま精密な治療をすれば、結果が悪くなるのは道理です。

そして保険診療におけるクリーニング(歯周基本治療)の点数は、むし歯治療や根管治療と比べて決して高くありません。「クリーニングで稼ぐ」という経営モデルは、率直に言って成り立ちません。

治療の"成功"を左右する4つの要因

むし歯の詰め物(コンポジットレジン修復)や根管治療(神経の治療)が長期的に成功するかどうかは、複数の要因で決まります。研究で繰り返し指摘されている主な要因は以下の5つです。

治療前の口腔環境整備が必要な5つの理由:感染管理・炎症コントロール・隔離防湿・歯冠修復の質・歯石除去と治療精度
治療の成功を左右する5つの前提条件。いずれも「治療前に口腔環境を整える」ことで改善できる要因です。

1. 感染・バイオフィルムの管理

歯の表面に形成される細菌の膜(バイオフィルム=プラーク)は、むし歯と歯周病の両方の原因です。治療部位の周囲にバイオフィルムが多ければ、治療後の再感染や二次う蝕(詰め物の周りにできる新しいむし歯)のリスクが高まります。[1][9]

2. 炎症(出血・滲出液)のコントロール

歯ぐきが腫れて出血している状態では、血液や歯肉溝滲出液が治療部位を汚染します。コンポジットレジンは歯面に"接着"させる材料ですが、湿った面には十分に接着できません。接着不良はそのまま脱離や辺縁の隙間につながり、やり直しの原因になります。[6]

3. 隔離・防湿(ラバーダムなど)

精密な治療には、唾液や血液から治療部位を守る「隔離」が不可欠です。根管治療では、ラバーダム(ゴムのシート)を使って治療歯を口腔内から隔離することが推奨されています。台湾の51万歯を超える全国規模の研究では、ラバーダムを使用した根管治療は抜歯リスクが19%低いという結果が出ています。[13]
歯ぐきが腫れた状態ではラバーダムが正しく装着できないため、治療前の炎症コントロールが隔離の成否を左右します。

4. 歯冠修復の質(ふたの精度)

根管治療後に被せ物や詰め物でしっかり封鎖することは、根の先の治癒に直結します。システマティックレビュー(複数の研究を統合した分析)では、適切な根管充填と適切な歯冠修復の両方が揃った場合に治癒率が高いことが示されています。[11][12]
炎症のある環境では、この「封鎖の質」を確保するのが難しくなります。

5. 治療精度の確保(歯石と歯の形態)

歯石が歯の表面に付着していると、本来の歯の形が見えなくなります。詰め物や被せ物は歯の形に合わせて精密に作るものですから、歯石がついたまま治療すれば、マージン(詰め物と歯の境目)の位置も形も正確に設定できません。型取りの精度も落ちます。
歯石除去は「お掃除」ではなく、治療の精度を確保するために歯の本来の形態を取り戻す工程です。

つまり、治療前のクリーニングは「それ自体が治療の成功を保証するもの」ではなく、成功に必要な条件(隔離・封鎖・感染制御・正確な形態把握)を成立させるための前提条件を整える工程です。

詰め物(コンポジットレジン)の予後と口腔内環境

コンポジットレジン(白い詰め物)の長期的な失敗原因として重要なのは二次う蝕(詰め物の周囲にできる新しいむし歯)です。

大学病院での後ろ向き研究では、患者さんのプラークスコア(お口の汚れ具合の数値)が高いほど二次う蝕が多く、修復物の生存率が低下する傾向が報告されています。特に複数の面にまたがる大きな詰め物ほど、プラークの影響を受けやすいことが示唆されました。[4]

また、日本を含む複数施設(732名)の後ろ向きコホート研究では、治療完了後に定期的な予防プログラム(ブラッシング指導+歯石除去+フッ化物塗布など)を継続した患者さんは、そうでない患者さんと比べて新しいむし歯の発生リスクが低いことが示されています。[5]

要するに

  • 口の中が汚れたまま詰め物をすると、詰め物の周囲に新しいむし歯ができやすい
  • 接着に必要な「乾いた、きれいな歯面」は、歯ぐきが腫れた状態では確保できない
  • 歯石がついていると歯の本来の形が見えず、詰め物の境目を正確に設定できない
  • プラークコントロールを改善してから治療に入ることで、詰め物の"持ち"が変わる可能性がある

根管治療(神経の治療)の予後と口腔内環境

根管治療の成否を左右する大きな因子は、根の中の感染をどれだけ取り除けるかと、治療後にどれだけしっかり封鎖できるかです。

複数のシステマティックレビューで一貫して示されているのは、「根管充填の質」と「歯冠修復の質」の両方が適切な場合に、根尖(歯の根の先)の治癒率が高くなるということです。[11][12]

ここで問題になるのが、歯ぐきの炎症です。歯ぐきが腫れて出血している状態では:

いずれも「歯冠側からの再感染」という経路で、治療結果を悪化させる可能性があります。

歯周病と根管治療の交差領域(いわゆる「歯内-歯周病変」)では、歯周治療を適切に行ったうえで根管治療に入ることが、予後改善に重要であることがシステマティックレビューで示されています。[14]

正直に認めるべきこと

ここまで「治療前のクリーニングには意味がある」とお伝えしてきましたが、公平を期すために、正直に認めるべきことがあります。

事実:低リスクの成人に一律のクリーニングが必要とは言い切れない

Cochrane(コクラン)のレビューでは、成人一般集団に対する定期的な歯石除去&ポリッシュは、2〜3年の範囲で歯肉炎の程度やポケットの深さ、生活の質に「ほとんど差がない」とされています。[7]
つまり、全員に画一的にクリーニングを行う根拠は強くありません。ネット上の「不要論」がこのデータを引用しているケースは、その部分に限れば間違いではありません。

しかし:高リスクの方・治療前の方には別の文脈で必要

上記はあくまで「一般集団への定期的なクリーニング」の話です。歯ぐきの出血が多い方、歯周病がある方、むし歯リスクが高い方、これから精密な治療を受ける方には、治療の成功条件を整えるという別の文脈でクリーニングが必要になります。[5][6][8]
「低リスクの人に不要だから、全員に不要」というのは、論理の飛躍です。

当院がこの問題に対してとっている姿勢は明確です:

「お口の状態を見て、必要な方にだけ提案する。不要な方には無理に勧めない。なぜ必要か(あるいは不要か)は、理由を含めて説明する」

— 院長 三木雄斗

どんな方に治療前のクリーニングが必要か

治療前クリーニングの必要性判断:出血・歯周病・むし歯リスクが高い方は必要、プラークコントロール良好で小さな初期むし歯の方は省略可能
すべての方に一律に必要なわけではありません。リスクに応じた判断が重要です。

必要性が高い方

省略を検討できる方

※省略可能と判断した場合でも、なぜ省略するのかをお伝えしています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 治療前のクリーニングは本当に必要ですか?

すべての方に一律に必要なわけではありません。歯ぐきの出血が多い方・むし歯リスクが高い方・歯周病がある方には、治療の質を確保するために必要です。お口の状態が良好な方には、追加のクリーニングの上乗せ効果は大きくない場合もあります。

Q2. なぜむし歯を先に治さないのですか?

歯ぐきが腫れて出血している状態で詰め物をすると、血液や滲出液が接着面を汚染し、詰め物の持ちが悪くなります。また、ラバーダムなどの防湿器具が正しく装着できず、治療の精度が下がります。先に炎症を落ち着かせることで、より長持ちする治療が可能になります。

Q3. クリーニングで来院回数を増やして儲けているのでは?

保険診療のクリーニング(歯周基本治療)の点数は、むし歯治療や根管治療と比べて高くありません。クリーニングを省略して治療した結果やり直しになる方が、患者さんにとっても医院にとっても負担が大きくなります。

Q4. 低リスクの人にもクリーニングは必要ですか?

口腔衛生状態が良好でプラークコントロールができている方に対して、画一的にクリーニングを行うことの追加効果は、研究レベルでも大きくないとされています。当院ではお口の状態を診た上で、必要な方にのみ提案しています。

Q5. 治療前のクリーニングにはどのくらいの期間がかかりますか?

口腔内の状態によって異なります。軽度の歯肉炎であれば1〜2回のクリーニングとブラッシング指導で改善する場合がほとんどです。歯周炎がある場合は、歯石除去・再評価を含めて数回かかることがあります。

Q6. 歯科医院によってクリーニングの有無が違うのはなぜですか?

歯科医院ごとに治療方針が異なります。クリーニングを省略してすぐ治療に入る医院もありますが、当院では治療の長期的な成功を重視し、必要と判断した場合はまず口腔内環境の改善をお勧めしています。どちらが正しいかではなく、「なぜその判断をしたか」を説明してもらえるかが大切です。

Q7. ネットで「クリーニングは不要」という情報を見ました。

「低リスクの成人に対する一律の定期スケーリング&ポリッシュは、2〜3年の範囲で歯肉炎やポケットの深さにほとんど差がない」という研究結果があり、これ自体は事実です。ただし、これは「全員に不要」という意味ではなく、「リスクに応じた判断が必要」という意味です。炎症がある方や治療前の方には、別の文脈でクリーニングが必要になります。

Q8. セカンドオピニオンを聞いてもいいですか?

もちろんです。治療方針に疑問がある場合は、セカンドオピニオンを受けることをお勧めします。当院でも他院からのセカンドオピニオンをお受けしています。

 

まとめ

  • 治療前のクリーニングは「金儲け」ではなく、治療を長持ちさせるための環境整備
  • 感染制御・炎症管理・隔離・封鎖の質に加え、歯石除去による正確な形態把握が治療精度を左右する
  • ただし、全員に一律に必要というわけではない。リスクに応じた判断が重要
  • 「なぜ必要か」「なぜ不要か」を説明できる歯科医院を選ぶことが大切

家を建てるとき、基礎工事を手抜きする業者はいません。歯科治療も同じです。口腔内環境を整えるのは、治療という「建物」を長く持たせるための「基礎工事」です。

基礎工事に金をかけるのは無駄だと言う人がいたら、その家に住みたいと思いますか?

 

⚠️ 免責事項

この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療方針を示すものではありません。治療の必要性は患者さんごとの口腔内の状態によって異なります。具体的な治療方針については、担当の歯科医師にご相談ください。引用した研究は主にシステマティックレビューおよびコホート研究であり、エビデンスの確実性は中程度です。

 

参考文献

  1. Opdam NJM, et al. Longevity of posterior composite restorations: a systematic review and meta-analysis. J Dent Res. 2014;93(10):943-949.
  2. Demarco FF, et al. Longevity of posterior composite restorations: not only a matter of materials. Dent Mater. 2012;28(1):87-101.
  3. Askar H, et al. Secondary caries risk of different adhesive strategies and restorative materials in permanent teeth: systematic review and network meta-analysis. J Dent. 2021;104:103541.
  4. Ulku SG, Unlu N. Factors influencing the longevity of posterior composite restorations. Heliyon. 2024;10:e27735.
  5. Arino M, et al. Multicenter study on caries risk assessment in adults using survival CART. Sci Rep. 2016;6:29190.
  6. Miao C, et al. Rubber dam isolation for restorative treatment in dental patients. Cochrane Database Syst Rev. 2021;5:CD009858.
  7. Lamont T, et al. Routine scale and polish for periodontal health in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2018;12:CD004625.
  8. Sanz M, et al. Treatment of stage I–III periodontitis—The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2020;47(Suppl 22):4-60.
  9. Marsh PD. Dental plaque as a biofilm and a microbial community. BMC Oral Health. 2006;6(Suppl 1):S14.
  10. Dutra D, et al. Does finishing and polishing of restorative materials affect bacterial adhesion and biofilm formation? Oper Dent. 2018;43(1):E37-E52.
  11. Ng YL, et al. Outcome of primary root canal treatment: systematic review—Part 2. Int Endod J. 2008;41(1):6-31.
  12. Gillen BM, et al. Impact of the quality of coronal restoration versus the quality of root canal fillings on success of root canal treatment. J Endod. 2011;37(7):895-902.
  13. Lin PY, et al. The effect of rubber dam usage on the survival rate of teeth receiving initial root canal treatment: a nationwide population-based study. J Endod. 2014;40(11):1733-1737.
  14. Schmidt J, Schäfer E. Treatment of periodontal-endodontic lesions—A systematic review. J Clin Periodontol. 2014;41(8):779-790.

 

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